MOMENT ICHIKING

ラブライブデイズ指にキラリ

推しの誕生日を沼津で過ごした話

 

 

先日,我が推し黒澤ルビィの誕生日に沼津に行ってきた。今回は,その沼津巡りの中での経験を少し書き留めておこうと思う。

 

最後に沼津に行ったのは1年以上前。春に京都から東京に引っ越してきて行きやすくなったものの,コロナやらなんやらで機会を失っていた。そこで,推しの誕生日に行かずにいつ行くのかと,思い立って行ってみたのである。

 

推しの誕生日に沼津に行くのは初めてだ。

それに,一人で宿泊して沼津巡りをするのも初めてだった。というのも,これまでは,東京と京都の間を行き来する途中に少しだけ立ち寄るということがほとんどだったからだ。そんな私には,夜まで沼津でゆっくりと過ごすという経験がこれまであまり無かった。

 

 

誕生日当日,昼前に沼津に到着した私は,沼津港に向かった。

最初の目的地は,今まで行ったことの無かった,さかなや千本一さんである。

目当てのルビィ丼は早くも売り切れていたため,私はダイヤ丼を注文することにした。

アジの干物の炊き込みご飯の上に,ボリュームたっぷりのネギトロとしらすが乗って出てくる。落ち着いた雰囲気の店内で港を眺めながらゆったりダイヤ丼を食べる時間は,ひたすらに贅沢だった。

 

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その後はびゅうおから景色を眺めたり,千本浜を歩いたり,cafe うみいろさんに入ってみたりし,最後に深海水族館に入った。そんなふうに沼津港周辺でまったりと過ごした午後だった。


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***

 

ところで,そんな裏でとあるできごとがあった。今回のブログを書こうと思ったきっかけのできごとだ。

 

それは,ルビィの新ソロ曲「コットンキャンディえいえいおー!」のMVが公開されたこと。そして,はっきり言うなら,自分がそのMVを受け入れられなかったということである。

MVが公開されたのはちょうどさかなや千本一さんで食事をしていた時のことだ。動画を開いた瞬間に「無理だ」と感じてしまった私は,最後まで見ることもできず,静かにYoutubeの画面を閉じたのだった。

 

前日の夜,私は「コットンキャンディえいえいおー!」がどういう位置づけの曲なのかを考えていた。

「RED GEM WINK」が臆病さを抱えたルビィの内面を表現した曲であるならば,「コットンキャンディえいえいおー!」は,その臆病さを乗り越えた先の先で,思いっきりスクールアイドルをやっている黒澤ルビィが歌う曲なのだろう。自分の全てを武器に変えて,何も臆することなく,喜びに満ちた笑顔で,彼女はこの曲を歌うのだろう。

CDの帯に書かれた「“大好き”をいっぱい詰め込んだおもちゃ箱☆」というキャッチコピー。きっとこの曲は,ルビィが“大好き”を表に出すための小さな勇気を積み上げていった,到達点にある曲なのだ。だから,この曲を歌う彼女の幸せそうな笑顔を見られたら,私自身,とても幸せな気持ちになるに違いない。

そんなことを考えていた。

 

しかし,公開されたMVは,予期していたものとは違うものだった(もちろんこれを予期した人は誰もいないとは思うが)。

ルビィは、記号的な可愛さを多く持っている。なるほどこのMVは,そうした可愛さを上手に使って作られたものなのかもしれない。しかし,私の好きな黒澤ルビィを,私はMVの中に見つけることができなかった。

 

供給されたものが刺さらないことなんてよくあることだ。だからはじめは気にしないようにして,沼津を楽しむことだけを考えようと思った。

しかし,沼津港エリアをうろうろしながらTwitterのTLを眺めると,MVに対する「面白い」「これこそ黒澤ルビィだ」といった肯定的な意見が多く流れてきていた。そうするとどうしても,自分がMVを受け入れられなかったことについて考えてしまうのだ。

これを受け入れられない自分は間違っているのか?自分は黒澤ルビィへの浅い理解しか持てていなかったのか?ルビィが好きだと言いながら,ルビィ推しじゃない他の人たちよりも,自分はルビィのことをわかっていなかったというのか?

実のところ,最近あまりルビィのことを考える時間をとれていなかった。ルビィ誕に合わせてブログを書きたいと思ってもいたのだが,うまくまとめることができなかった。だから,ルビィ誕に沼津に来てみたとはいえ,ちょうど自分の“好き”への自信を少し無くしていたところだったのだ。そんな心境のゆえに,上のような思考が,なおさら振りほどきがたく頭にまとわりついてきたのである。

 

自分は本当に黒澤ルビィのことを真剣に見ていたのだろうか?自分の好きな黒澤ルビィはMVの中にいないと感じた。だが,自分の好きな黒澤ルビィってそもそも何だったのだろうか?

夕方に1時間並んで入った深海水族館も集中できず,そんな不安感が頭の中を占領し続けた。水族館を出る頃には,私の気持ちはすっかり疲弊してしまっていた。

 

せっかくルビィ誕に沼津に来ているのに,自分はどうしてこんな気分になっているのか。自己嫌悪を抱きつつ,私はバスに乗り,宿泊予定のリバーサイドホテルのある,あげつち商店街の方面に向かった。

 

 

***

 

 

だが,そんな気分を抱えていたからこそ感じることのできたものが,その日あったのだと思う。

 

 

 

バスを降りると,Aqoursがそこかしこにいるあげつち商店街の見慣れた光景が広がっている。私はその中を歩き,リバーサイドホテルの中に入った。

フロントの脇には種々のポスターが飾ってある。そして,チェックインをすると,今年の花火大会のポスターをもとにしたデザインの,水とティーバッグをプレゼントされた。そっと包み込んでくれるような千歌の穏やかな表情。それを眺めていると少し心が和らぐのを感じた。

 

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今回最も楽しみにしていたのは,あげつちや仲見世のエリアでゆったり過ごす夜だった。冒頭で述べたように,移動の途中で沼津に寄ることが多かった私は,そうした夜を過ごしたことがなかったのである。

部屋に入り荷物を置くと,まずは「Bar ねこと白鳥」さんに電話をかけてみる。仲の良いオタクにルビィ誕当日の沼津の巡り方を相談した際に,おすすめされた店だ。4連休中のルビィ誕に入れるか少し不安だったが,無事に席を確保することに成功した。

 

そうして私は夜の沼津へと繰り出した。目的の店に行けることが確定した安堵と,自分の“好き”に悩み疲弊した気持ちを抱えて。

 

 

まずはつじ写真館さんへと赴く。営業はすでに終了していたが、誕生日恒例の黒板アートが電灯に照らされ闇の中に静かに光っていた。

 

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既にツイッターでこの黒板アートの写真はちらりと見ていた。でも,実際にそれを目の前にすると,少し不思議な気分になった。初めて対面する絵ではあったが,そこに描かれたルビィのこの優しい笑顔を,私はよく知っていた。

 

 

次に浜忠さんに向かう。浜忠さんに入るのも初めてだ。

店の表のショーウィンドウに,ルビィを祝う花が置かれていた。

店の中に入り,カウンター席に案内される。席に座ると,たまたま目の前に,ルビィのぬいぐるみが置いてあった。誰かオタクからの贈り物だろうか。「青空Jumping Heart」の衣装の上に手作りの特別なお洋服が着せられている。

 

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カウンターの壁際には,浜忠さんへのインタビュー記事が掲載された『LoveLive!Days』が立てかけられていた。スタミナ定食を注文し待っている間,私はそのインタビュー記事を眺めた。

そこには店主さんの息子さんの,こんな言葉が書かれていた。

「TVアニメ1期の4話で彼女がダイヤちゃんに見せた“小さな勇気”に惹かれて大好きになり,〔スタンプの絵柄に〕選ばせていただきました。」

同じだ,と思った。そうだ。思えば私も、可愛らしさの奥にある“小さな勇気”に惹かれるようになったから、彼女を好きになったのである。

 

自分が今いるこのお店は,自分のルビィへのまなざしと同じまなざしをルビィに対して持ってくれている。私と同じ“好き”を持ってくれている。

そんなことを思いながら,私は目の前のぬいぐるみをぼんやり見つめた。

 

食事を終えて会計をする時,私は店員さんにぬいぐるみの服についてふと尋ねてみた。

いわく,この服は,店主さんの奥さんの手作りなのだという。特別なイベントもできない情勢の中,奥さんが今年のルビィ誕のために作ってぬいぐるみに着せ,ひっそりとカウンターに置いたのだそうだ。

ああそうか,と思った。何気なく見つめていたこのぬいぐるみの服は,まさに浜忠さんのルビィに対するまなざしの,現れだったのだ。

私はあたたかな気持ちとともに浜忠さんをあとにした。

 

 

さっきまで私を疲弊させていた不安は消えはじめていた。

MVを受け入れられなかった私は,一人身を守るように懸命に,自分の“好き”を自分で肯定しようとした。だが,かえってよくわからなくなってしまっていた。

黒板アートやぬいぐるみといった,街で見かけるルビィの姿。それを通して私が感じたのは,沼津の人達のルビィに対するまなざしであった。そして私はそのまなざしの中に,私の好きな黒澤ルビィを見つけつつあった。

 

 

仲見世商店街に着き,ねこと白鳥さんの看板を見つける。

 

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そこから地下に入っていくと,広々とした,昭和風のレトロな空間が広がっていた。

 

注文するのは、Twitterでお知らせを見て楽しみにしていた2つのメニューだ。

 

梨子にちなんだ桜とルビィの好物お芋をテーマにした,バラエティ豊かな「さくらとおいものデザートプレート」。

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そして,「ルビーポートワイン」をベースにした甘めのカクテルにコットンキャンディ(わたあめ)が乗せられた,曲のイメージそのままの「わたあめカクテルえいえいおー!」。

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キャラをイメージした工夫がこらされていて,とても楽しい気分にさせられる。

ここにも,キャラを慈しむまなざしがある。

 

カクテルとデザートプレートを味わいながら,考える。ここにあるルビィへのまなざしとともに,考える。

MVを受け入れられなかったということは、自分が間違っているとか、浅いとか、そういうことではなかったのだろう。それは単に、“私の好きな黒澤ルビィ”の像が私の中にはっきりとあったというだけの話で,MVから感じられる黒澤ルビィ像がそれとは違うものだったという,ただそれだけの話なのだ。

私は,ルビィのあの可愛らしさやあざとさに惹かれて彼女を好きになったわけではない。そこに自分の“好き”の軸は無い。私が彼女を好きになったのは,臆病さを振り払って一歩を踏み出す彼女の勇気と,踏み出した先で彼女が見せる笑顔を,かっこいいと思ったからなのだ。そうやって好きになったからこそ,彼女の可愛らしさにも惹かれるようになったのだ。

沼津の街の中に感じるルビィへのまなざしが,そんな私の“好き”に寄り添ってくれるような気がした。それでいいのだと,言ってくれているような気がした。私が勝手にそう思っただけなのかもしれない。だが,確かにこの街は,私にそう感じさせてくれたのだ。

 

もう少し胸を張ってみよう。そう思った。

自分はちゃんと,黒澤ルビィのことが好きなのだ。

 

 

 

***

 

気付けば,ねこと白鳥さんで2時間ほどの時を過ごしていた。

私は店を出ることにした。そのままふらふらと散歩をする。犬拾い場に行ってみた。犬はいなかった。

 

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私はあげつち方面に戻り,リバーサイドホテルの裏手,かのがわ風のテラスの階段に腰を下ろした。

 

少し離れたところでオタクのグループが騒いでいる。

私はコンビニで買ったハイボールを開け,橋の明かりの映った狩野川を一人眺める。

イヤホンをして,ルビィのソロアルバムを再生する。「RED GEM WINK」が流れ,「コットンキャンディえいえいおー!」が流れる。ふいに涙が込み上げてくる。そうだ、好きなのだ。私はこの子のことが、好きなのだ。

 

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ちょうど日付が変わろうとしていた。ルビィの誕生日が終わる。

不思議な一日だった。

苦しんだ一日だった。MVを受け入れられず、自分の好きのあり方が間違っているのかと不安を抱いた。けれども,そんな気分だったからこそ心に染み入ってきたものがあった。それは沼津の人達のルビィに対するまなざしだ。“好き”を見失いそうになった私に、そのまなざしは、私の好きな黒澤ルビィを教えてくれた。

 

沼津に来てよかった,と思った。

 

それまでの私にとって,沼津は、ただ風景のある場所だった。物語の中と同じ風景が広がっている場所であり、物語に思いを馳せるための場所。その風景の中に人がいる必要は無かった。

だがこの日私が触れたのは,人のいない風景ではなく,人のいる街だ。作品を受け入れ愛してくれる人達のまなざしを湛えた街だ。この日私の心を癒してくれたのは、風景ではなく、まなざしであった。

 

沼津で時を過ごすごとに,ただ物語の風景がある場所であることを超えて,この街はますます特別な場所へと変化していく。

たくさんの人達がこの街で同じように,いや,それぞれの仕方で,大切な時を過ごしてきたのだろう。その思い出と結び付いた,無数の,特別な沼津があるのだろう。

 

まなざしを湛えた街。思い出を湛えた街。

今の私にとって沼津は,そういう場所だ。

 

 

 

***Thank you for reading***