深呼吸の時間

ラブライブとか 読書とか

初めての楽器を購入した話

f:id:ichiking125:20210802061636j:plain



先週,楽器を買いました。


ピアノをやってみたくなりキーボードを買ったのです。

キーボードを買った。そんなこと,傍から見ればわざわざ宣言するほどのことでもないかもしれません。でもこれは,私にとってはちょっぴり大きな出来事でした。



* * *


私はこれまで,小中学校の音楽の授業のほかは,音楽をやったことが一切ありません。


そもそも音楽の授業には苦手意識を持っていました。触れたことのある楽器といえば授業でやったピアニカとリコーダーくらい。楽譜の読み方なんて全くわからないし,リズム感も音感も欠如しています。家庭環境の中にも音楽の要素はほぼ皆無でしたし,音楽を本格的にやっているような親しい友人もいませんでした。


そんなわけで私は,音楽を奏でる側になることなんてほとんど考えたことが無いまま育ち,これからも音楽とは縁の無い人間として生きていくのだろうとなんとなく思っていました。


だから自分にとって,キーボードを買うというのはなかなかに意味のある出来事なのです。



* * *



今回買おうと思い立ったのは,後述するように,直接的には読んだ小説がきっかけです。

でも実はもともとここ1~2年くらいの間で,音楽をやってみたい気持ちが私の中に育ってきていました。



ラブライブ!サンシャイン!!』にはまって,ある時からネットを介して人と交流するようになって。
そんな中でできたある親しい友人が,昔から楽器をやってきた人でした。


その友人は,技量の不足をときたま嘆きながらも,音楽が大好きだと語っていました。
楽器を演奏することはとても楽しい,と。仲間と一緒に曲を奏でて心地よい和音の中に溶け込んだとき,そこには言葉に表現できないほどの嬉しさがあるんだ,と。


その言葉から伝わってくるものはとてもキラキラしていました。
私は,その友人と親しくなっていくにつれて,自分がその友人の語る景色を知らないということをどこか寂しく思うようになりました。


私も音楽の喜びを味わってみたい。楽器を奏でることで見える世界の色を知ってみたい。
そんな漠然とした気持ちが,密かに私の中で大きくなっていきました。



だけどどうしたらいいのだろう。
音楽のことは本当に何もわかりません。具体的に何の楽器をやったらいいのかのイメージもありません。
どこかに習いに行けばいいのかな。そんなふうにも思いましたが,現実的に言って自分にはレッスンに通う経済的余裕がありません。
足の踏み出し方がつかめないまま,私は,音楽をやりたい気持ちを自分の中に押しとどめていました。



* * *



さて,ついこの前の連休中に,瀬尾まいこのベストセラー小説『そして,バトンは渡された』を読みました。
親の離婚や再婚で何度も親が変わってきた高校生の女の子を主人公に,普通とは違った形の家族の中にある,人と人との関係性のあたたかさを描いた小説です。


この小説の主人公は,中学生の時からピアノをやっています。そして特に中盤,物語がピアノを軸に進みます。
主人公がピアノに親しむようになった過去の経緯,現在の父「森宮さん」とのピアノを原因にした不和と和解,あるいは,ピアノを介した同級生への淡い恋心……。
瀬尾まいこの優しい色合いの文章が,ピアノを通して主人公が得た素敵な経験の数々を描き出していきます。

「うわあ……」
私が歓声を上げると,
「弾いてみる?」
と泉ヶ原さんはピアノのふたを開けてくれた。
「何も弾けないんだけど」
私はそう言いながらも,そっと鍵盤に触れた。ピアニカとは違う重い鍵盤は下まで沈むと,澄んだ音を響かせた。自分の指先が鳴らすピアノの音は,想像していたよりも,すてきだった。
瀬尾まいこ『そして,バトンは渡された』文春文庫,p199f)


この小説を読みながら私は,自分も音楽をやってみたい,楽器を奏でてみたいと改めて強く思いました。
やっぱり私は,この主人公やあの友人が見ている世界の色を知ってみたいのです。


主人公が家で弾いているのは電子ピアノです。
ヘッドホンをつけて,夜に黙々とピアノを弾く。楽しい時も辛い時も主人公のように黙々とピアノを弾く。そんな生活もなかなか良いかもしれない。
そう思った私は,気が付くと,電子ピアノについてインターネットで調べ始めていました。



* * *



調べているうちに,なんだかとてもワクワクしてきました。
音楽のことが何もわからないから楽器を買っても仕方がない。そんな風に今まで思い込んでいました。


でも,調べながら思いました。
そんなことは気にせずに買ってしまえばいいじゃないか。だって,叩けば鍵盤は鳴るのだから。
音楽を習う経済的余裕がない?なら自力でゼロから勉強すればいい。
何もわからない?リズム感が無い?音感が無い?そんなもの,わかるようになればいい。訓練すればいい。


私の親しんでいる作品にも,できなさを乗り越えて,やりたいことへと手を伸ばした登場人物たちがいました。
それこそ,音楽をゼロから始めた『虹ヶ咲学園スクールアイドル同好会』の高咲侑。運動のできなさを一生懸命乗り越えようとした『ラブライブ!スーパースター‼』の唐可可。彼女らの顔が思い浮かびます。
あるいは,たった3ヶ月の練習でステージ上でピアノを弾いた声優もいました。


そうだ,そうやってまずは無理やりにでも手を伸ばせばいいんだ。私はそう気付きました。



置き場所的にも出せる金額的にも,88鍵盤のちゃんとした電子ピアノではなくて61鍵盤のキーボードがちょうどよさそうです。デザイン的に好きだと思えるキーボードも見つけました。
私は家にキーボードを置くシミュレーションをして,想像を膨らませました。


まだ買おうという決心をしたわけではありませんでした。
でも,その夜中私は,あまりにもワクワクして眠れなくなってしまいました。翌朝早くから遅れられない用事があるというのにです。


私はそのまま布団の中で考えました。
きっとこの衝動は従うべき衝動なんだ,と。
この衝動は,今まで踏み出せなかった世界に自分を連れて行ってくれる切符なんだ,と。


そして

よし,ピアノを始めてみよう,と。



* * *



朝になり,用事を不眠状態でなんとか済ませた私は,渋谷へと向かいました。
目星をつけたキーボードが手頃な値段で売っている楽器店を,夜中の眠れない勢いのままに調べておいたのです。ネットショップでもいいのですが,楽器店に足を運んで買いたい気持ちがありました。


もちろん,音楽をやったことがない私には,楽器店にまともに足を踏み入れるのも初めてです。


私は,緊張しながら店の入り口をくぐり,そのままゆっくりと店内を歩いてみました。
目当てのキーボードは,ほどなくして見つかりました。


私はキーボードを見ながら店員さんと少し話をしました。私の声は緊張で少し震えていたかもしれません。
店員さんは,そのキーボードで軽く音を鳴らしてくれました。

それは曲でもなんでもないただの音でした。
でも,目の前で響くその音は,たまらなく美しく聴こえました。

自分が今から買うものは,こんなにも綺麗な音を響かせるんだ。そしてこの楽器が,私の知りたかった世界の色をこれから私に教えてくれるんだ。
そう思うと嬉しくて,どきどきして,目頭が熱くなりました。
大袈裟でしょうか。でも私は,確かにそんな感動を覚えたのです。




そして私は,初めての楽器を購入したのでした。







商品は配送になるとのことで(持ち帰れなくてちょっとがっかりしました),しばらくして自宅に届いたものがこちらです。
今年の4月に発売されたカシオのCT-S1というモデル。かっこいいです。


f:id:ichiking125:20210802013600j:plain



* * *



何かはっきりとした目標があるわけではありません。
披露したり,誰かと演奏したりする場があるわけでもありません。
私はただただ音楽の色を知ってみたいだけ。
もしかするといつか外に出てみたくなる時も来るかもしれない。今後どういう思いを抱くようになるかは全然わかりません。
でも,どこに向かうかまだわからないけど,面白そうな未来が待っている。そんな気がしています。


いずれにせよまずは,自分の部屋でヘッドホンをして,孤独に鍵盤の音に身を委ねてみることにしましょう。
ピアノの教本も買ってきましたしね。




ところで最後に……


私には一つ,大好きなメロディがあります。


それは,『響け!ユーフォニアム』という作品に登場し,作中でとても大切に扱われるあるメロディです。そう,作品と同じ題名を与えられたあの曲「響け!ユーフォニアム」です。
これは,自分が楽器で演奏してみたい曲として真っ先に思い浮かぶものの一つでした。


キーボードが届いた夜,私はネットでこの曲の楽譜を見つけました*1。そして,その楽譜をわからないなりに読んで,練習してみることにしました。
そんなわけで,キーボードが届いてから4日後の朝に,最初から最後までなんとかたどたどしく弾いてみたものがこちらです。


youtu.be

テンポがよくわかりません。音符の長さは二分音符と四分音符しか理解できません。最後のダララララララ~は指がついていきません。


こんな状態ですが,それでも,大好きなメロディを自分の手で奏でるというのはすごく嬉しいものですね。
もっと綺麗に弾けるように,これから一歩一歩,勉強と練習を重ねていきたいと思います。






というわけで,初めての楽器を購入したお話でした!




***Thank you for reading***